「働き方改革」には、「過重労働の解消」だけでなく、「多様な働き方の推進」という意味もあります。実際に、どんな働き方をしている人がいるのか、具体例を紹介します。
CASE 1 K先生
中学校で非常勤講師をしながら、飲食店を経営
関西地方の中学校に非常勤講師として勤めるK先生には、もう一つの顔があります。それは、小さな飲食店の店主。午前中は非常勤講師として中学校で授業を行い、午後は学校の近くにあるお店で料理を振舞っています。K先生はもともと料理が大好きで、「お店を開きたい」と考えていました。そのため、30代後半になって正規教員を退職し、「先生」と「料理人」を掛け持ちするようになったそうです。
お店には、近所の小学生や中学生も立ち寄り、お店の中で宿題をしていく子もいるなど、子どもたちにとっては第三の居場所になっています。K先生は、そうした子どもとの関わりも、日々の学習指導に生きていると言います。
CASE 2 T先生
小学校で非常勤講師をしながらNPO法人に勤務
関東地方に住むT先生は現在、小学校で非常勤講師として週に数コマの授業を持ちつつ、教育系のNPOで働いています。若いころ、 T先生は民間企業に7年ほど勤めていましたが、結婚数年後に子どもが生まれたことで退職。数年は専業主婦として子育てに専念していました。
しかし、40代になって子どもが大きくなったことから「外で働きたい」と思うようになり、小学校教諭の免許状を所持していたことから、小学校の非常勤講師となりました。さらには、主婦仲間から声をかけられる形で、教育系のNPOにも勤めるようになりました。NPOでは、子育の経験も非常勤講師の経験も、役に立っているとのことです。
CASE 3 O先生
複数校で非常勤講師をしながら、塾講師なども
関西地方で高校・体育の非常勤講師をするO先生は長年、非正規の常勤講師として働き、教員採用試験の合格を目指していました。しかし、試験対策の時間が思うように取れないこともあり、30代を迎えたころから考え方を改め、教員採用試験は受けず複数校の非常勤講師と塾講師などをしながら生活する形にシフトしました。
現在は非常勤講師として週に3校を回り、空いた時間に塾講師を入れるなどして、生計を立てています。ただ、働き方は年度によって異なり、常勤講師として働く年度もあり、その場合は副業ができないため、教師に専念しています。
CASE 4 N先生
非常勤講師と地域コーディネーターを掛け持ち
関東地方に住むN先生は、週4日非常勤講師として学校で働きながら、地域コーディネーターとして、地域と学校をつなぐ役割を担っています。
N先生は以前、小学校の正規教員として働いていて、結婚・出産後も育休を取得しつつ、教壇に立ち続けていました。ただ、子育てをしながらでは、 N先生自身が目指す「地域と連携した教育活動」が思うようにできないジレンマから退職を決意。その後は、非常勤講師と地域コーディネーターを掛け持ちする形で働いています。具体的に、学校が地域と連携をした教育活動をする際に、必要な人材や地域資源を紹介するなどの支援を行っています。N先生が正規教員時代に目指した「地域と連携した教育活動」を異なる形で実現していることになります。
CASE 5 E先生
小学校に勤務しながら、お寺で副住職を務める
関東地方の小学校で正規教員として担任を受け持つE先生は、お寺の住職の長男。「副住職」という肩書を持ちます。そのため、日ごろは普通に小学校教員として働いているものの、それ以外の時間帯では副住職としての仕事もこなしています。
小学校教員として子どもたちを指導する際、「お坊さん」としての顔が出ることも多く、子ども同士のトラブル対応なども「不妄語戒」(嘘をつかない)などの思想に基づき、対処することがあるとのことです。
なお、お寺の住職をしながら教員をしている人は、全国に一定数いるようです。
教員の副業規定ってどうなっているの?
教員採用試験でもよく問われるポイントですが、地方公務員には「職務専念義務」「営利企業等の従事制限」などの義務が、地方公務員法によって課されています。そのため、公立学校の正規教員や臨時的任用教職員としてフルタイムで働く場合は、原則として副業ができないことになっています。
ただし、任命権者(小中学校は市町村教育委員会)から許可が得られた場合は、副業も可能です。また、非常勤講師の場合は、基本的に副業は可能で、教育の職に限らず、アルバイトやパートタイマーとして働くことも可能です。
【地方公務員法による義務】
秘密を守る義務(第34条)
在職中、退職後を問わず職務上知り得た秘密を漏らしてはならないことを規定
職務専念義務(第35条)
勤務時間及び職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用いることを規定
営利企業等の従事制限(第38条)
任命権者の許可を受けなければ、営利企業等には従事できないことを規定
兼業しながらの生活、収入面は?
非常勤講師として兼業しながら生活する場合の収入は、兼業の内容によるものの、一般的にはフルタイムの教員よりも悪く、不安定です。ただ、時間や組織に縛られない自由さがあるため、余暇を有意義に使って、自分のやりたいことをやれるメリットはあります。一方、年金や退職金なども減るため、計画的なライフプランが必要です。また、収入元が複数にわたるために、確定申告が必要になってきます。
先生の「多様な働き方」をサポートする団体
先生の副業を強力に後押し NPO法人「教員副業コーディネーターまちまち」
「公立学校の教員は副業禁止」と認識している人が多いですが、許可さえ得られれば、副業は可能です。加えて最近は、公務員の地域貢献活動制度が各地に創設され、兼業はしやすくなりつつあります。とはいえ、こうした制度の知名度は低く、現状ではやりたいことがあっても「副業はNGだから」とあきらめてしまう教員が少なくありません。
そうした中、名古屋市にあるNPO法人「教員副業コーディネーターまちまち」では、副業に興味を持った教員に、具体的な手続きのサポートや副業先の紹介などをしています。こうして教員が学校外で働くことになれば、実社会のことを深く知り、視野が広がることにもつながります。また、地域とのつながりができることで、教育活動の充実につながる可能性もあります。今後、部活動の地域移行が進めば、部活動指導に熱心な教員が、勤務時間終了後に地域スポーツクラブで指導に携わるということも考えられるでしょう。
学校での多様な働き方が見つかる 教員向け求人サイト「ミツカルセンセイ」
教員志望者の多くは正規教員を志望していますが、中には「週に3回だけ働きたい」「自宅の近くの学校で働きたい」といった人もいます。そうしたニーズから勤務先となる学校を検索できるWebサイトとして、2024年夏に開設されたのが「ミツカルセンセイ」です。サイトにユーザー登録をすると、「勤務場所」を指定して検索が可能です。求人情報には、その学校の教員からのメッセージ等が掲載されていることもあります。もし、そこで働きたいと思ったら、そのままサイト上から応募することもできます。
これまで、臨時的任用教職員や非常勤講師として働きたい場合は、教育委員会に講師登録をするのが一般的でしたが、勤務場所や勤務形態が分からないため、登録に二の足を踏む人が少なくありませんでした。その点で「ミツカルセンセイ」は、志望者が自ら働く場所や働き方が選べる上に、応募をしない限り連絡が来ることがありません。そのため志望者が気軽に登録でき、潜在的な教員志望者の掘り起こしになると期待されています。
もっと詳しく知りたい方は『月刊 教員養成セミナー』2025年1月号をcheck✔
1月号の誌面では、「働き方改革」のリアルな実情をさまざまな側面から紹介します。同時に、教員採用試験の筆記・論作文・面接などで問われそうなポイントや、全国の自治体での「働き方改革」も紹介しています。ぜひお手にとってご覧ください。