学校教育を大きく変えた「GIGAスクール構想」

「GIGAスクール構想」によって、児童生徒に1人1台ずつデジタル端末が配備されました。
ここでは、機器の配備に至る経緯や端末導入による授業の変化などについて解説していきます。


「GIGAスクール構想」って何?

「GIGAスクール構想」は学校教育のデジタル化についての総合的な指針で、2019年12月に公表されました。構想では具体的に、児童生徒に1人1台ずつデジタル端末(1人1台端末)を配備すること、高速大容量回線の校内通信ネットワークを整備することなどが盛り込まれ、配備・整備を行う自治体には国が費用の2分の1を補助する方針が示されました。2019年度の補正予算額として2318億円が計上されるなど、学校教育においてはかつてない予算規模の一大プロジェクトだったと言えます。
端末が配備される以前は、コンピュータ室への移動が必要でしたが、1人1台ずつデジタル端末が配備されたことで、子どもたちは「いつでも」「どこでも」端末が使えるようになり、学習活動の幅は大きく広がりました。

「GIGAスクール構想」はなぜ実現したの?

「GIGAスクール構想」は当初、2024年度末までの配備を目指した中長期的な計画でしたが、2020年初頭からのコロナ禍で、状況が一変しました。2020年3月に全国一斉休校が実施されると、一部の自治体や私立学校がオンラインで授業を実施し、他の自治体の保護者等からは「不公平だ」との声が一斉に上がったのです。そうした中、文部科学省が端末の配備を呼びかけ、世論に押される形で各自治体が配備を進めました。結果として、2021年3月末にはほぼすべての自治体が配備を完了させ、計画は約4年も前倒しされることになりました。


2020年以前、日本の学校のデジタル化は世界的に見ても大きく遅れていました。しかし、「GIGAスクール構想」が前倒しされたことで、少なくともハード面においては一躍トップクラスに躍り出ることになりました。配備があまりにも急だったため、導入当初は現場から戸惑いの声も上がりました。

どんな機器が配備されたの?

配備する機器を何にするかは、各自治体に任されています。全国的な配備状況を見ると、Windows OSを搭載したノートパソコン、GoogleのChrome OSを搭載したクロームブック、アップル社のiPadの3種類に大きく分かれています。いずれもポータブルタイプの端末で、子どもが持ち歩いて使用することを想定しています。中には本体が通信機能を備えた「セルラー型」の端末を配備し、遠足や修学旅行、校外学習などでもインターネットが使えるようにした自治体もあります。

保管はどのように行われているの?

端末の保管は、子どもが自宅に持ち帰っているケースもあれば、学校の充電保管庫で保管しているケースもあり、自治体や学校によって異なります。自宅へ持ち帰る場合は、家庭学習で使えたり、保護者や児童生徒との連絡ツールとして使えたりするなどのメリットがあります。一方で、破損や故障のリスクが高まること、端末を使って遊ぶ子が出ることなどのリスクもあり、現状は学校で保管しているケースも少なくありません。

端末などの機器を使ってどんな授業が行われているの?

デジタル端末の導入・活用は、世間的には「DX化」「IT化」などと言われますが、学校教育の分野では長らく「ICT(Information and Communication Technology)化」という言葉が使われてきました。それは端末を使ってCommunication(対話)することを重視したからだとも言えます。とはいえ、黒板とチョークを使って授業をしてきた学校教員が、端末を使って対話的な授業をするのは容易ではありません。そのため、文部科学省では「教育の情報化に関する手引」を公表するなどして、具体的な活用方法を示しています。

授業以外でも使われているの?

デジタル端末は、授業だけでなく、課外活動でも利用されています。例えば、学校行事の制作物を作ったり、学級の係活動で活用したりしている学校もあれば、中学校では部活動で活用し、技能の向上が図られている学校もあります。また、自宅への持ち帰りが認められている学校では、宿題を端末で出したり、保護者との連絡ツールとして活用したりしているケースもあります。

端末を使うことのメリットって何?

デジタル端末については、一部の関係者から「わざわざ使う必要があるのか」「現状のままでも十分ではないか」といった声も聞かれます。確かに、「知識・技能」の習得だけであれば、黒板とチョーク、紙の教科書だけでも十分かもしれませんが、「予測不可能なこれからの社会」を生きていく上で必要な思考力や表現力などを養う上で、端末の活用は不可欠と言われています。また、教員の業務効率が高まり「働き方改革」につながるとも言われています。

教員の業務効率も大幅にアップ!

すべての子どもが端末を所持しているので、プリントの印刷・配付・回収もすべて端末上で行うことができます。また、デジタルドリルなどが導入されていれば、採点もコンピュータが自動でしてくれます。上手に活用すれば、教員の業務効率を大幅に高められると言われています。

端末の導入によって問題は生じていないの?

教育のデジタル化については、いくつか課題も指摘されています。中でも、「使い過ぎ」や「ネットいじめ」などを懸念する声は多く、端末の普及・活用において避けて通れない課題となっています。そのため、各学校では「情報モラル教育」を行うなどして、子どもたちに端末の適正な利用を促しています。

デジタル端末を活用する上での課題

端末の使い過ぎ

日本の子どもたちのインターネットの利用時間を表したのが下の図です。小中高全体で「3時間以上」の割合は70.8%、「5時間以上」の割合は40.1%にも上り、平均値は約4時間57分となっています。中でも高校生は7時間以上が全体の3分の1に上るなど、かなり長時間にわたって利用していることが分かります。
また、目的ごとの平均利用時間を見ると「趣味・娯楽」が最も多く、勉強・学習での利用を大きく上回っています。そのため、端末の持ち帰りを認めている自治体では、使い過ぎをいかに防ぐかが課題となっています。


ネットいじめなど

文部科学省の調査によると、いじめの態様において「ネットいじめ」の占める割合は3.5%と、さほど多くはありません(下表参照)。とはいえ、ネット上のいじめは教職員による発見・認知が難しいこともあり、実際にはこれよりも多い可能性があります。ネットいじめの多くは自前のスマホなどを通じて行われるケースがほとんどですが、学校配付の端末が使われる可能性もゼロではないことから、対策が求められています。

採用試験でも問われる「情報モラル教育」

子どもたちが情報を正しく安全に利用できるようにする教育を「情報モラル教育」と言い、各学校段階別の学習指導要領においても、情報活用能力の一つとして「情報モラル」を養っていくことの必要性が明記されています。実際に各学校では、情報のやりとりをする際のマナー、不適切な情報に出合ったときの対処、適正な利用時間、情報セキュリティなどに関する指導が、発達段階を踏まえながら行われています。


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