解説!「働き方改革」とは?③

学校で進められている「働き方改革」とは、どのようなものなのでしょうか。教員志望者として知っておくべき基本情報を解説していきます。(①、②からのつづき)

5・国が進めている「働き方改革」の具体的内容を教えて!

先述したように、2019年1月に「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」が出されたことを契機に、さまざまな形で学校の「働き方改革」が進められています。ここでは、教員採用試験で問われるポイントを中心に、解説していきます。

その① 学校・教師が担う業務の明確化

中央教育審議会の答申の中で最も注目され、話題になったのは、学校や教師が担う業務内容が明確化されたことです。これまで、教員が当然のように担っていた登下校時や放課後の見回り、地域ボランティアとの連絡調整などは「基本的には学校以外が担うべき業務」と位置付けられました。また、負担の大きい部活動についても、「必ずしも教師が担う必要のない業務」と位置付けられました。今後、この区分に沿って業務のすみ分けが進めば、教員の負担は大きく軽減されるはずです。

その② 勤務時間のガイドラインの策定

中央教育審議会の答申におけるもう一つの注目点は、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」が示されたことです。このガイドラインは、1カ月の超過勤務の上限を45時間、1 年間の超過勤務の上限を360時間として、これを「超えないようにすること」と示し、服務監督者である教育委員会に遵守を求めています。また、在校時間の把握は、ICTやタイムカードを使用するなどして、客観的な方法で行うよう求めています。それ以前、学校では勤務時間の管理がほとんどなされてこなかったので、ガイドラインがこのように示したことは非常に画期的なことでした。

その③ 部活動の見直し

中央審議会で審議が進む過程で、スポーツ庁が2018年3月に「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を、文化庁が同年12月に「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を示し、部活動の「休養日」と「活動時間」についての基準を示しました。2019年1月に出された中央教育審議会の答申では、このガイドラインを遵守するよう求めています。2つのガイドラインに共通する「休養日」と「活動時間」の基準は以下の通りです。なお、2022年12月に両ガイドラインが統合、全面改定され、新たに「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」が策定されています。

部活動の「地域移行」とは?

部活動改革のもう一つの柱が「地域移行」です。学校が担っていた部活動を地域のスポーツクラブなどに移行する取り組みが、国レベルで進められています。文部科学省の「運動部活動の地域移行等に向けた実証事業」により、各自治体でモデル事業が展開され、すでに地域移行が完了したところもあります。
一方で、地域によっては部活動を担う人材や施設が不足していたり、指導者への謝礼などの費用負担の問題が生じていたりと、課題も山積しています。そのため、地域移行が全国レベルで進むかどうかは、不透明な部分もあります。

その④ 長期休業期間中の業務の見直し

中央教育審議会の答申を受けて、見直しが進められたことの一つが、長期休業期間中の業務の見直しです。夏休みや冬休み、春休みなどは、教材研究や授業準備を蓄積して学期中の負担を減らしたいと多くの教員が考えていますが、現実には部活動や研修などに追われ、そうした時間を取れない状況があります。そのため、文部科学省では2019年6月に「学校における働き方改革の推進に向けた夏季等の長期休業期間における学校の業務の適正化等について(通知)」を出し、各教育委員会に教員の負担を減らすよう呼び掛けています。具体的に、以下のような見直しを求めています。

その⑤ 小学校における教科担任制の推進

小学校の担任は、1 人で複数の教科を担うため、授業準備や教材研究などに膨大な時間が必要となります。特に、キャリアの浅い新任・若手教員が全教科を受け持つのは現実的ではないとの声も関係者からは聞かれます。そうした状況を踏まえ、中央教育審議会の答申では「小学校の教科担任制の充実」を今後の検討課題として挙げています。また、2021年10月には文部科学省の有識者会議が「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について(報告)」を出すなど、高学年を中心に小学校の教科担任制が推進されています。小学6年生における実施状況は以下のグラフの通りで、算数や理科、体育、外国語などの教科は、ここ数年で大きく教科担任制が普及したことが分かります。

その⑥ 支援スタッフの雇用

「教員の過重業務の軽減」と「より専門的な指導や支援」を目的として、ここ数年は教員以外のスタッフが数多く学校で働くようになりました。具体的に以下のようなものが挙げられます。これら以外にも、授業を支援する学習支援員、特別な配慮が必要な子をサポートする支援員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどのスタッフが、多くの自治体・学校で働いています。

その⑦ ICTを活用した業務の効率化

過重労働の解消に向けて大きな期待を寄せられているのがICTです。教育活動や校務をデジタル化することで、業務の大幅な効率化が図れると言われています。具体的に、以下のような活用例が文部科学省の資料や手引き等には示されています。

その⑧ 「給特法」の見直し

教員は4%の教職調整額が支給される代わりに、残業代が支給されません。たとえ月に80時間の残業をしても、月給30万円の教員であれば4%に相当する1万2,000円しかプラス支給されない計算になります。こうした状況はさすがに看過できないとして、最近ではこの制度を既定する「給特法」の見直しを求める声が高まっています。
そうした声を受け、教員の労働環境や処遇の改善を目指し、中央教育審議会で検討が進められ、2024年8月には「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(答申)」が示されました。この答申では、教職調整額を「少なくとも10%以上とする必要がある」として見直しの必要性を明記し、文部科学省は2025年度予算の概算要求で、13%に引き上げることを盛り込みました。
一方で、教職調整額を増額しても教員の時間外労働は減らないとして、「給特法」の廃止を訴える声もあります。

「給特法」とは
「給特法」の正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」と言い、今から50年以上前の1971年に制定された法律です。当時と今では教員の労働環境が大きく違っていることから、「実態に合っていない」との指摘もされています。

その他 業務負担軽減に向けた取り組み

PTAの在り方の見直し

PTAに関わる業務が、教員の負担を大きくしている側面もあります。また、一部の保護者だけに大きな負担がかかっているような状況もあります。そのため、最近ではPTAを廃止する学校も出始めています。
新たな試みの一つは、PTAの「地域移行」です。例えば、千葉県流山市の学校では、地域学校協働活動推進員(地域コーディネーター)がボランティアの取りまとめを行うなどして、PTA本部が担っていた役割を地域に移管し始めています。

「カリキュラム・オーバーロード」の解消

「オーバーロード」とは「過積載」の訳語で、「カリキュラム・オーバーロード」は、教育課程が多すぎて、学校教育のあらゆるところに歪が生じている状態を指します。世界各国に共通する課題で、日本でもここ数年、多くの専門家が指摘するようになりました。まもなく、次期学習指導要領の改訂に向けた審議が本格化しますが、「カリキュラム・オーバーロード」の解消は大きな検討事項の一つと言われています。


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